FMC同値変形学入門1 HSI&BF編

この記事の想定読者: EDH (EO→DR→HTR) を用いてFMCの解答を作ることができる者

 

0. はじめに

…… U L2 F2 L2 U2 B2 L2 R ……

これを見て何か思うことはないだろうか。

一見するとただのFMCの解答の一部分のようだ。しかし、ここには1つの罠が隠れている。

実は、L2 F2 L2 U2 B2 L2 という手順は R2 B2 L2 D2 F2 R2 という手順と、途中経過は異なるが最終的に全く同じ置換をもたらす。このような関係を「=」を用いて次のように表す。

L2 F2 L2 U2 B2 L2 = R2 B2 L2 D2 F2 R2

そしてこれを最初の式に代入すると、キャンセルが生じて1手減らすことができるのだ。

U L2 F2 L2 U2 B2 L2 R
= U R2 B2 L2 D2 F2 R2 R
= U R2 B2 L2 D2 F2 R'

この記事では、このような書き換えをキューブを使わず回転記号上の操作のみで行う「同値変形」について、その基本的な技術であるHSIとBFを例に挙げて解説する。

注意

この記事ではDRの軸をU/D軸で固定する。

この記事やこの分野で使う記号・用語

・= …… 右辺と左辺の置換が等しい。

・≒ …… E列の状態を無視すると、右辺と左辺の置換が等しい。

・[] …… 式変形するところを分かりやすくするために付けたカッコ。このカッコ自体を無視しても式に影響はない。

・LS …… Leave Slice の略。DR後、E層を除く全てを揃えること。また、それが完了した状態。

・スライスムーブ …… E または M または S 層の回転。

・スライスインサート(SI) …… スライスムーブのインサート。

・DR-move …… DR後に回してもDRが崩れない回転(U, U', U2, D, D', D2, F2, B2, R2, L2)。

・DR-sequence …… DR-moveのみで構成された手順。

・HTR-move …… HTR後に回してもHTRが崩れない回転(U2, D2, F2, B2, R2, L2)。

・HTR-sequence …… HTR-moveのみで構成された手順。

・HSI …… 1章参照。

・ID-sequence …… 1章参照。

・BF …… 2章参照。

1.スライスインサート (HSI)

この章では、DR-sequence(<U,D,F2,B2,R2,L2>のみで構成された手順)の中に、E2 を2回インサートして元と全く同じ状態にする、最も基本的なスライスインサートについて解説する。

まず始めに、DR-sequenceのうち、E層のエッジが「無交換」あるいは「対角交換」と呼ばれる状態になる「ID-sequence」について定義する。*1

定義 (ID-sequence)

あるDR-sequenceを次の通りに書き換える。

U, U', U2, D, D', D2 ↦      (何も書かない)
F2, B2F2
R2, L2R2

このとき
最初と最後の1手がR2で他は全てF2、または、最初と最後の1手がF2で他は全てR2
になる*2とき、そのDR-sequenceを基本ID-sequenceと呼ぶ。
そして、基本ID-sequenceを1個以上連続で繋げた形になっている手順をID-sequenceとする。

基本ID-sequenceの例
R2 L2 U'
F2 U2 R2 L2 D2 F2

ID-sequenceの例
F2 U2 R2 L2 D2 F2
U2 B2 U2 R2 F2 L2 R2 D2 U'

ID-sequenceの前後では前述した通りE層エッジに「無交換」あるいは「対角交換」という置換が起こる。*3

この性質により、次の定理が成り立つ。

定理1 (HSI)

AがDR-sequenceのとき、
AがID-sequenceである ⇔ A = E2 A E2

つまり、作成した解答の中にID-sequenceが含まれている場合、そのID-sequenceの左右に E2 を付け足しても結果は変わらないのである。

(無交換or対角交換のPLL(U,H,Z,E,N,V,Y)が、U2してからその手順を回してもコーナーが"揃う"のと一緒である。)

このようなインサートを、当記事ではHSI (Half Slice Insertion)と呼ぶ。これは(少なくとも執筆現在は)一般的な呼称ではなく、単にスライスインサート (SI)と呼ばれることもある。

 

例1.1

…… U // HTR
D2 R2 F2 L2 U2 B2 // Solved

このようにHTR前とHTR後の繋ぎ目で U D2 のような同時回しが生じてしまった場合、そこから始まるID-sequenceを挟むように、かつ U2 D2 があってキャンセルできる位置に E2 をインサートすることで1手減らすことができる場合がある。

今回は R2 F2 L2 が ID-sequenceになっており、その右側に都合よく U2 があるので、HSIで1手減らすことができる。

解答例

U D2 R2 F2 L2 U2 B2
= U D2 [E2] R2 F2 L2 [E2] U2 B2
= U' L2 B2 R2 D2 B2

 

例1.2

U2 F2 R2 F2 U2 // FR
F2 R2 L2 F2 // Solved

この例では E2 をインサートしても手数が減ることはないが、R2 L2 があるので M2 をインサートすることができる。

解答例

U2 F2 R2 F2 U2 F2 R2 L2 F2
= U2 F2 R2 [M2] F2 U2 F2 [M2] R2 L2 F2
= U2 F2 L2 B2 D2 B2 F2

このように、HTR後は全ての軸がDRになっているため、どの軸でもHSIをすることができる。

FR後に R2 L2F2 B2 のような部分が残る場合は、HSIで手数が減らせる場合が多いので、気をつけたい。

また、この例ではまだ最後に F2 B2 が残っており、この直前にあるID-sequence U2 F2 L2 B2 D2 の左右に S2 をインサートすることも出来るが、左側の S2 はキャンセルが起きないので、合計の手数は変化しない。

解答例2

U2 F2 L2 B2 D2 B2 F2
= [S2] U2 F2 L2 B2 D2 [S2] B2 F2
= F2 B2 D2 F2 R2 B2 U2

 

2. ブロッキーフィッシュ (BF)

前章で解説したHSIは、スライスムーブのインサートである。したがってコーナーの動き、つまり解答の大まかな「構造」が変化しないし、R2 L2 のような同時回しの部分が無ければそもそも手数を減らすことができない。

それに対し、これから解説するBFは、解答の大まかな「構造」を変化させる同値変形であるため、R2 L2 のような部分が無くても手数が減らせる可能性がある。

BFとは、以下の定理を用いて同値変形をするテクニックである。

定理2.1 (BF)

A = U2 F2 U2 または A = U2 B2 U2
B = R2 または B = L2
のとき、E層の状態を無視すると、
A B = B A
が成り立つ。

なお、「E層の状態を無視すると A B = B A」を「≒」という記号を用いて「A B ≒ B A」と表す。


この定理はつまり、…… U2 ◯2 U2 △2 …… のようにDR-sequenceの中に2つの U2 があり、その間に側面回転 ◯2 が1つ、その外側にも別の軸の側面回転 △2 が1つ隣接していれば、△2 U2 ◯2 U2 の前に回しても後に回してもよいということである。

(注意1:U/D層の状態は変化しないが、E層の状態は必ず変化する。そのためこの同値変形はLS後のスライスインサートをする(or VRを作る)前に行うべきである。)

(注意2:対称性から、U2 ◯2 U2 ではなくD2 ◯2 D2 でも全く同じ事が可能だが、U2 ◯2 D2D2 ◯2 U2 のときは少々処理が変わるので、例2.2を参照。)

(注意3:上で示したAのどこかに E2M2 S2 を挿入したものでも同じ事が成り立つ。例2.3を参照。)

 

この同値変形により回す軸の順序が変わるため、前後とキャンセルさせたり、何もなかったところから F2 B2 のような部分を生み出してHSIで手数を減らせることもある。

なお、完成状態から U2 F2 U2 R2 と回すとU面とD面の模様が魚のようになるため、この状態そのものや、AとBを入れ替える同値変形のことをBlocky Fish (BF) と呼ぶ。

 

例2.1

…… U // HTR
F2 D2 L2 D2 R2 B2 // LS

この場合HSIはできないが、A = D2 L2 D2 、B = F2 とすることでBFをすることができる。

U F2 D2 L2 D2 R2 B2
= U [F2] [D2 L2 D2] R2 B2
U [D2 L2 D2] [F2] R2 B2
= U D2 L2 D2 F2 R2 B2

このままでは手数が変わらないが、U D2 の部分に適当に E2 を入れることでLSまでの手数を1手減らすことができる。(実戦ではこの操作をせずに直接VR等をしてE層を揃えにいってもよい)

U D2 L2 D2 F2 R2 B2
U D2 [E2] L2 D2 [E2] F2 R2 B2
= U' R2 U2 F2 R2 B2

解答例

…… U' // HTR
R2 U2 F2 R2 B2 // LS

 

例2.2

…… (U') // HTR
R2 B2 D2 F2 U2 L2 // LS

このように、A = U2 ◯2 D2 の場合はどちらかを2層回しにして U2D2 に統一することで、BFを使うことができる。

D2 F2 U2 L2
= Uw2 y2 F2 U2 L2
= y2 [Uw2 F2 U2] [L2]
y2 [L2] [Uw2 F2 U2]
= R2 D2 F2 U2

解答例

…… (U) // HTR
R2 B2 R2 D2 F2 // LS

 

Aの最初と最後の1手が反対の面の場合は、BFを使うとBが反対の面の回転になると覚えてしまってもよい。

定理2.2

A = U2 F2 D2, B = R2, B* = L2 のとき、
A B ≒ B* A かつ B A ≒ A B*
が成り立つ。

 

例2.3

…… (R) // DR
…… D // HTR
R2 F2 R2 U2 R2 L2 B2 D2 // LS

この例は一見BFもHSIも使えないように見えるが、以下の事実から、BFを使うことができる。

定理2.3

定理2.1のA内の任意の位置に E2, M2, S2 をインサートしたものをA*とすると、A*についてもAと同様にBFができる。

(例えば、A* = U2 M2 F2 U2, B = R2 のとき、
A* B ≒ B A* が成り立つ。)


したがって、HTR後の R2 U2 R2 L2 B2 D2 の部分は

R2 U2 R2 L2 B2 D2
= [R2] [U2 M2 F2 U2] x2
[U2 M2 F2 U2] [R2] x2
= U2 R2 L2 B2 D2 R2

と同値変形できるので、NISSの繋ぎ目でキャンセルが発生して、1手削減することができる。

解答例

…… (R') // DR
…… D // HTR
R2 F2 U2 R2 L2 B2 D2 // LS

 

3.練習問題

問題

与えられた手順と全く同じ置換をもたらし、かつその手順より1手以上少ない手順を求めよ。ただし、(◯層無視)と書いてある問は、その層のエッジのみ変化させてもよいものとする。

(1) L2 D2 L2 B2 U2 R2 L2 F2

(2) U R2 U2 B2 U2 F2 R2 L2 F2 U'

(3) R U2 L2 B2 U2 D2 L2 B2 U2  (M層無視)

 

解答

(1) L2 D2 L2 B2 U2 R2 L2 F2
= L2 [M2] D2 L2 B2 U2 [M2] R2 L2 F2
= R2 U2 L2 F2 D2 F2   (-2手)

(2) U R2 U2 B2 U2 F2 R2 L2 F2 U'
= U R2 U2 [M2] B2 U2 F2 [M2] R2 L2 F2 U'
= U R2 U2 R2 L2 F2 D2 B2 F2 U'
= U R2 [S2] U2 R2 L2 F2 D2 [S2] B2 F2 U'
= U R2 F2 B2 D2 L2 R2 F2 U2 U'
= U R2 F2 B2 D2 L2 R2 F2 U   (-1手)

(3) R U2 L2 B2 U2 D2 L2 B2 U2
= R U2 L2 B2 [E2] R2 F2 U2 [y2]
= R U2 L2 B2 E2 [Lw2 x2] F2 U2 y2
= R [U2] [L2 B2 E2 Lw2] x2 F2 U2 y2
R [L2 B2 E2 Lw2] [U2] x2 F2 U2 y2
= R L2 B2 U2 D2 L2 D2 B2 U2
R L2 [M2] B2 U2 D2 L2 [M2] D2 B2 U2
= R' F2 D2 U2 R2 D2 B2 U2   (-1手)

*1:より正確には、無交換にあたるのがI-sequence、対角交換にあたるのがD-sequence。これらを当記事ではひとまとめにして、ID-sequenceとする。

*2:コミュテータ記号を用いると、[R2: (F2)n] または [F2: (R2)n] ということ。また、U D' のような、書き換えると0手になってしまう手順も、U D' R2 R2 のように表すことができるので基本ID-sequenceである。

*3:R2 セットアップで F2B2 を幾ら回してもFR↔BLかFL↔BRしか起こり得ないよね、ということである。